マヌエル・ブランカフォルトはこわくないと思う
Manuel Blancafort(マヌエル・ブランカフォルト)(1897〜1987)はバルセロナ出身のクラシックの作曲家。正式な音楽教育は受けなかったが、ピアノ・ロール工場長だった父からの繋りでジョアン・ラモート・デ・グリニョンに和声法を学ぶ。1914年に、同郷で四つ年上の、当時第一次世界大戦を避けてパリ留学から地元に戻っていた作曲家フェデリコ・モンポウの知遇を得て激励される。その後も ”Scenes d'enfants” (子供の情景)を献呈されるなど、モンポウと親しく交流する。その経歴と作風から、モンポウと比較されることがある。
ブランカフォルトとモンポウの交流について
ブランカフォルトとモンポウの交流については、往復書簡を翻訳された方がおられるので、ぜひ以下のリンクをたどってみてください。なお、書簡のなかでブランカフォルトがモンポウに「フラダリック」と呼び掛けているのは、モンポウの名前はカタルーニャ語で Frederic Mompou 、フラダリック・ムンポウという発音になるからです。あ、この椎名亮輔という方は、デオダ・ド・セヴラック 南仏の風、郷愁の音画 (叢書ビブリオムジカ)の著者ですね。
書簡のなかで、ラグタイムのピアノロールについての話しが少しありました。191x年ころの書簡なので、当時は流行の真っ最中ですね。思わずニヤリとしてしまいました。ラグタイムの流行は、もうすぐ終ってしまいますよ…自動ピアノのほうはまだ少し先があるけれど…
- A bâtons rompus: モンポウ/ブランカフォルト往復書簡1
- A bâtons rompus: モンポウ/ブランカフォルト往復書簡その2(1921年 7 月〜1924年 7 月)
- A bâtons rompus: ブランカフォルト財団によって紹介されました
ピアノ協奏曲第2番
このアルバムには、ブランカフォルトの ”Concierto Para Piano y Orquesta No. 2 en la Menor "Ibérico"” と、師匠との繋がりでジョアン・ラモート・デ・グリニョンの息子 Ricard Lamote de Grignon 、リカルド・ラモーテ・デ・グリニョンの ”Tríptico de la Piel de Toro” が併録されています。
ブランカフォルトはモンポウと異なり、多くの管弦楽曲やリストに挙げたようなピアノ協奏曲を書いています。管弦楽曲は聴くことができなかったけれど、1946年の作というピアノ協奏曲を聴いてみると、何というか…オーケストラの響きはドビュッシーを経由したグリーグかシューマンか、というふうです。それにプラスして地元の音楽の風味。南米とか日本とか、ヨーロッパの中心から離れた地域の作曲家に良くある、何十年か遅れて情報が伝わってくるかと思えば、速く届く情報もある感じ。
ピアノ曲
…ところで、このアルバムはフォルテで音が割れたり歪んだりしますね。ちょっと残念。でもブランカフォルトのまとまった録音はこれくらいしかないので…というのはさておき。
同時代で同郷の、かつ曲を献呈されるほどモンポウと交友が深かったブランカフォルトということで、なるほど確かにモンポウっぽく(さらにモンポウ経由でサティっぽくドビュッシーっぽく)響く瞬間というのは多々あると思います。
モンポウが好きならこちらも同じく好きになるんじゃないかな、と確かに思うのだけれどでも、モンポウにあってブランカフォルトに無いものが明らかにあって…ええと、モンポウを語るときに「繰り返される鐘の響き」みたいな話しがあるじゃないですか。お腹にズシンと響くような、身体にジーンと浸透するような響き。ブランカフォルトの曲にはこれが無いせいかこう、するする流れていってしまう感じがします。
モンポウはこわいけれど、ブランカフォルトはこわくない。どちらも繊細で内気だけれど、モンポウは狂っていて、ブランカフォルトは正気だ。二人はとても良い友人同士だったけれど、二人は遠く隔たっている。
妙にメカニカルなブランカフォルト
ブックマークコメントでラヴェルについて言及がありました。そこからの思い付きを追記します。(id:tadachika_id)
見出しの通りなんですけど、ブランカフォルトのピアノ曲を聴いていると稀に、妙にメカニカルというか一本調子というか、そういった感じのするパッセージが飛び出してきたりします。ええと、息継ぎしてない感じと言ったら伝わるでしょうか。
これを、ピアノロール工場で最初の音楽的経験を積んだことと結び付けることは可能だと思います。ピアノロールに録音された演奏の特徴として、妙に表情付けがデジタルっぽかったりリズムが前のめりだったり息継ぎせずに泳ぎ続けている感じだったり、というのがあると自分は考えていて、ブランカフォルトの曲、例えば ”Sonatina Antiga” にそういったことが反映しているのではないかと。
以下は、ピアノロールに録音?された、ラヴェル自作自演です。ワルツという曲は最もリズムや表情付けに敏感な種類の曲だと思っているので、こうした比較に最適です。一つ目とか、こんなセカセカ弾かないと思うので。
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