四分音ピアノの音は、心臓にダメージが大きい場合があります。ヴィシネグラツキー「24の前奏曲」
四分音ピアノという楽器について、耳にしたことがありますか?…では、十二平均律ではなく、二十四平均律という言葉については?
…今聴いているのは、ロシア帝国の末期に勃興した芸術運動である「ロシア未来派」の作曲家イワン・ヴィシネグラツキー、Ivan Wyschnegradsky(1893〜1979)の「四分音システムピアノのための作品集」というものです。ロシア未来派の活動を行っていた芸術家の多くは、1917年のロシア革命を避けて国外へ脱出していますが、ヴィシネグラツキーも1920年にパリへ亡命し、そのまま戻りませんでした。
四分音ピアノとはどんなものか
ジャケットに写っているのはおそらく、Wikipedia のヴィシネグラツキーのページで書かれている、ドイツのピアノ製造会社フェルスター社が製造したという三段式の四分音ピアノです。三段式って何だ、という話しなのですが、画像を良く見るとオルガンみたいに鍵盤が多段式になっていますね。これで、二十四平均律を表現しようとしたようです…
ジャケット画像だけではこけおどし、実際に音を聴いてみましょう。ヴィシネグラツキー「四分音ピアノのための二十四の前奏曲」です。動画のサムネイルには二台のピアノが写っていますが、これは「四分音システムによるピアノ」です。二台のピアノを並べて、A を四分の一音ずらして調律することによって、二十四平均律を表現しています。
なお事前に注意しておきますが、かなり心臓に悪い響きがする箇所がたくさんあります。いやホントに。自分は、心臓の調子が悪いときはこの曲は聴きません。ダメージが大きいので。心臓発作を起すかと思ったこともあります。
いかがでしたでしょうか?平面だと思っていたものが平面でなくなっていく、直角だと見えていたものがどんどん歪んでいくような感じ。ありえない音を出すピアノが気持ち悪い。
…どんな楽譜になっているのか見てみたくなりますよね。幸い、譜例を写しながら曲が進んでいく動画がありました。あれ?コピーを重ね過ぎたせいか、記号の線が所々消えちゃってるじゃないですか…?どれがナチュラルだかフラットだかシャープだか、何がなんだか。
四分音とは何か
以下の画像は、Wikipedia の「微分音」のページから持ってきました。四分音以外の例も載っていて大変、その…インパクトあるなぁ。というかこんな楽譜、眼に厳しいですよね。読み間違いを大量にやらかしそうです。
動画の譜例と見比べると、フラット系の表記が下の画像と異なっているようですが、シャープ系の縦線が多い少ないで四分音を表現するのは同じように見えます。シャープの縦線が一本なら四分の一音高い、二本なら半音、三本なら四分の三音高いというふう。四分音 - Wikipedia を見ると、二十四平均律の解説があるので、興味のあるかたはどうぞ。
四分音ピアノの音楽を楽しむ
細かいことはさておき(良く理解できなかったとも言う)、出てきた音楽を、響きを楽しみましょうか。心臓に悪い場合があるのは既に書きましたが、体調の良いときや波長が合ったときは、とても自然な響きと感じることもあるのです。
ヴィシネグラツキー「統合」
最初に紹介した藤井一興とアンリエット・ピュイグ=ロジェによるアルバム「ヴィシネグラツキー:四分音システムピアノのための作品集」にも収録されている "Intégrations, Op. 49" です。iTunes Store には、ヴィシネグラツキーのアルバムはほとんど無いので、貴重です。
ヴィシネグラツキー「虹」
題材によるのかも知れませんが、この「虹」は比較的聴きやすく、紹介したなかでは最も楽しめる曲だと思います。なお、一つ前の「統合」も、そこそこ聴きやすいです。
ヴィシネグラツキー「四分音システムのための前奏曲集 Op.22」
このアルバムは "Preludes in Quarter-Tone System Op.22" 全曲は収録されていませんが、その代わりにチャールズ・アイヴスによる "Three Quarter-Tone Pieces for Two Pianos" "Three Page Sonata" 等を収録しています。
チャールズ・アイヴス「四分音ピアノのための三つの小品」
別の作曲家のものも聴いてみましょう。アメリカの作曲家チャールズ・アイヴス、Charles Ives(1874〜1954)の "3 Quarter-Tone Pieces" です。
これを聴くと、四分音ピアノという楽器から受けた印象のある部分は、作曲家ヴィシネグラツキーの個性に由来するものなのだな、と思います。楽器から出てくる音に対する印象が、ずいぶん違いますよ。
アロイス・ハーバ「四分音ピアノのためのソナタ」
アロイス・ハーバ、Alois Hába(1893〜1973)はチェコ出身の作曲家。Wikipedia によると、こうした四分音/微分音を使用した作曲についての重要人物であるとのことです。アロイス・ハーバ - Wikipedia
"Sonata for quarter tone piano, op.62 " は本当に自然な雰囲気で、親しみやすい旋律を感じ取れる曲です。えっ、四分音ピアノなんて使っているんだし実験的な曲じゃないの?と思うかも知れませんが、そんなことはないです。この曲は、心臓に悪くないですね。というか普通に、まったく違和感無く耳に入ってきます。