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ロベルト・ジェラール、ファリャ以降で最も凄いヤツ?

今回の記事は、スペイン出身の作曲家 Roberto Gerhard、ロベルト・ジェラール(1896〜1970)についてです。「恋は魔術師」等で超有名なマヌエル・デ・ファリャ以降の最も重要な作曲家として、ロベルト・ジェラールは再評価が進んでいるそうです。入手し易いものとしては、CHANDOSレーベルからオーケストラ作品のアルバムが合計5枚出ています。

この作曲家は割と好きというか、気になる作曲家で、アルバムは以前から集めていました。それは記事のタイトルにも含めましたが、「スペインの作曲家で、ファリャ以後に凄い人っていないの?」とずっと考えているからです。

ロベルト・ジェラールは、アルベニスグラナドス、ファリャを育てた教師として高名なフェリペ・ペドレルに師事しており、自らもスペインの作曲家の王道をいくことに…曲を聴く限りでは、そうなっていないですね。キャリアの最初からね。

二十歳過ぎまでスペインでペドレルに師事、その後ウィーンで勉強、帰国後は自国内で活躍していた。スペイン内戦時には第二共和国側に立ったため、内戦が終了しフランコ総統が勝利した後の1939年にはイギリスに亡命。フランコ総統のほうが長生きしてしまったため、存命中は母国での演奏機会は無かったそうです。

ロベルト・ジェラール、初期の作品

これは以前スペインの作曲家のCDを大人買いしていたときに、ほぼ何も考えずに買ったものです。初期の作品であるピアノ・トリオと、チェロ・ソナタ、「八人のための協奏曲」等が収録されているものです。

…ピアノ・トリオには驚きました。曲が始まった瞬間「フォーレか!」と。作曲した時期は1918年といいますから、二十歳を少し過ぎた辺り。花のように香り高い響き、内容は借り物感はまったく無く熟れたもので、大変に充実しています。

Piano Trio: I. Modere

Piano Trio: I. Modere

  • Barcelona 216
  • クラシック
  • ¥150

WikiPedia からロベルト・ジェラールの初期の作風についての文章を引用します。まさに、なるほど!です。

最初の20年間(バルセロナ時代とイングランド亡命後)は、垢抜けていて極めて豊かな、近代的な音楽語法をスペインの民族音楽に結びつけた。その一方はペドレルからファリャに至るスペイン国民楽派の伝統であり、もう一方はバルトークストラヴィンスキーのような同時代の巨匠からの影響であった。

Youtube にロベルト・ジェラールの「ピアノ・トリオ」第1楽章があったので、リンクを貼っておきます。9分くらいです。ぜひ聴いてみてください。完成度の高さに唸ること請け合いです。

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ロベルト・ジェラール、シェーンベルクに師事する

師であるフェリペ・ペドレルは、ロベルト・ジェラールが若いときに没してしまいました。紆余曲折を経て、新しい作曲の師匠としてジェラールが選んだのは、なんとアーノルド・シェーンベルクでした。あの花のような曲を書いていた人が、どうして「無調」だ「十二音技法」だというようなシェーンベルクを選んだのか…びっくりだ。

ファリャの次の世代を担うはずだったジェラールは、どこへ行ってしまうのでしょう…シェーンベルクの薫陶を受けた後、1929年作曲の ”Concertino para cuerdas” 「弦楽合奏のための協奏曲」を聴いてみてください…ってあれ?時代なりに重い感じはあるけれど、そんなシェーンベルクの影響とか分らなくない?バルトークの影響が出ている、というなら分る。というかバルトークに似ているというのも時代なりかな、と。

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 ロベルト・ジェラール、壮年期から晩年

CDで

ロベルト・ジェラールは、CHANDOSレーベルからオーケストラ作品のアルバムが合計5枚出ています。Matthias Bamert 指揮、BBC Philharmonic Orchestra の演奏です。入手し易いとなったら、この辺りでしょうか。

ハープシコード協奏曲」は1956年に発表されています。20分ほどもあるし、そこそこの編成のオーケストラをバックにしているし、結構な規模の曲です。「ハープシコード協奏曲」といえばファリャにも同様の曲がありますね。曲の雰囲気も似ているところがあるように思います。どちらも大変に乾いた音楽です。ただしファリャのほうは、実質的には室内楽編成で、そこら辺りは違いがあります。

violinhi.hatenablog.com

ここではハープシコードは、小さく固く鋭く尖った音、バルス的な音、乾いた音、無表情な音、ドライな音を発する楽器として扱われていると思います。オーケストラに混ざったら、ハープシコードの繊細で豊かな倍音がーとか言っても、距離が遠くて聴衆まで届かないしね。

Harpsichord Concerto: I. Allegro maestoso

Harpsichord Concerto: I. Allegro maestoso

 

Homenaje a Pedrell: II. Andante (un poco adagio)

Homenaje a Pedrell: II. Andante (un poco adagio)

 

Harpsichord Concerto: III. Vivace spiritoso

Harpsichord Concerto: III. Vivace spiritoso

Youtube

Youtube で Roberto Gerhard、ロベルト・ジェラールを検索してもロクな結果が返ってきませんねぇ…とりあえず、「管弦楽のための協奏曲」(1965年)「ヴァイオリン協奏曲」(1943年)「ペドレルへの賛歌」(1941年)があったのでリンクを貼っておきます。CDを丸ごとアップしたようなやつなので本当は良くないんだけど、ジェラールの場合は認知度が低過ぎるので、もっと多くの人に聴いて貰ったほうが良いのではないかと思いました。

管弦楽のための協奏曲」

管弦楽のための協奏曲」なんてものを書いているということは、とりあえず作曲の腕に覚えがあるということでしょう。そして「管弦楽のための協奏曲」というものは楽しいものが多いです。この曲もそうで…いや、どうだろう。

オーケストラの多数の楽器にきちんと出番を与えて、かつ破綻させたりせず全曲を纏めています。作曲の腕が立つのはまさにその通りだけれど、この曲ではあんまり聴き手に分り易いサービスはしてくれてないっぽいです。ちょっと焦点がぼやけているかも。

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 ヴァイオリン協奏曲

「ヴァイオリン協奏曲」は、ヴァイオリンという楽器自体の特性も手伝ってかスペイン的なノリも感じられ、大変聴きやすく楽しめます。第3楽章はヴァイオリンの派手な技巧が披露されていてギラギラとしていて、特に良かったです。第3楽章は動画の27:40辺りからです。

ロベルト・ジェラールの曲をひとつだけ選んで聴くなら、これが良いと思います。全曲で35分程度で、無闇に長大なわけでもないし全体の構成も引き締まっていて無駄が無いし、ケレン味はたっぷりあって掴みも良いし…誰か有名なヴァイオリニストが弾いてくれたら、ブレイクするのではないか。

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ペドレルへの賛歌

「ペドレルへの賛歌」は1941年に発表されています。タイトル通り最初の師匠であるフェリペ・ペドレルに捧げられています。そのせいか、曲のあちらこちらからスペインの薫りがするような。聴き易くて楽しめます。この曲は iTunes Store に複数の録音がありますが、頷けます。いつもの作風というか、現代風に響くところはどこにもありません。でもそれは良いことなのかどうか、分りません。 

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まとめ

ロベルト・ジェラールは、楽器の扱いの巧みさ、構成力は凄いと思います。でも自分が聴いた範囲では、初期のころから母国の文化的なものから離れた立ち位置で作曲しているようで…「ペドレルへの賛歌」は例外的みたい。

ヴァイオリン協奏曲のように母国の伝統に頼らず離れすぎず、且つ良い曲もあるのですが…「スペインの作曲家で、ファリャ以後の凄い人っていないの?」という問いに対する答えは出ていません。