セルパンが唸る、チューバが歌うジャズ、ミシェル・ゴダードの ”ImpertinAnce”
チューバという金管楽器を知っていますか?オーケストラの後ろのほうに座っている、とても大きくてとぐろを巻いている、腕に抱かえるようにして持つ感じのやつです。
今日紹介するのは、Michel Godard、ミシェル・ゴダードというフランスのチューバ奏者のアルバムです。この人以外で、チューバという楽器でジャズを演奏している人を、自分は聴いたことがありません。いや、いるかも知らんけど。
チューバという楽器はコントラバスやファゴットと並んで、オーケストラの低音を支える楽器の一つです。弦楽合奏ならコントラバスが、小規模なオーケストラならコントラバス+ファゴットが、合奏が大規模になって、コントラバス+ファゴットでは支えきれなくなったら、チューバが混ざってくる。
合奏を支えられなくなるとどうなるかというと、合奏全体の重心が上がってしまいます。重心が上がってしまうと、出てくる音が地に足がつかなくなってしまいます。絵画的に表現すると「地面に足がついていない、浮いてる人物の絵」みたいな感じ。立派な身体なのに地面から浮いていて、体重が無いように見えるのはとても不自然…
町のオーケストラでメンバーが集まらなくて、ずっとベースが居ないまま合奏を続けていたことがあります。そこへやっとベースが入って、初めて合奏に混ざったときの衝撃たるや。体重がいきなり増えたみたいに重心がグッと下って、まったくバランスが変ってしまったんですから。合奏でこうした低音の楽器がいかに重要か、分るというものです。…でも、ソロの楽器としてはあんまり…良く知らないけれど、たぶん何かもごもごするんだろうし。
ImpertinAnce
2005年の録音、イタリアの CAM Jazz レーベルからの発売。このアルバムで最初にクレジットされているのは、ヴィブラフォン/マリンバの Franck Tortiller です。後はチューバ/セルパンの Michel Godard、ドラムの Patrice Heral。編成からして、かなり攻めてきていると思う。ピアノもウッドベースもいないし。…ん?セルパンって何のこと?
試しに、一つ目を試聴してみてください。ここでミシェル・ゴダードは、おそらくセルパンを演奏しています。
- アーティスト: Franck Tortiller,Michel Godard,Patrice Heral
- 出版社/メーカー: CAM Jazz
- 発売日: 2006/10/06
- メディア: CD
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Serpent、セルパンとは
ミシェル・ゴダードの名前で検索すると、下の試聴リンクのような蛇みたいなジャケット絵がたくさんひっかかります。これは Serpent = フランス語でセルパン = 英語でサーペント = (毒)蛇という意味と、チューバが発明される以前に同じ用途で使用されていた、蛇のようにウネウネした形の管楽器「セルパン」をかけているのです。
ミシェル・ゴダードは自分の参加するアルバムで、多くチューバとセルパンの両方を使用しています。試聴リンクを聴くと分ると思いますが、チューバより少し音程感が怪しくて、少し荒い音がするようです。これと比べたら、チューバの演奏はシュッとした音がするし小回りが利くし、全然違って聴こえます。
セルパンの演奏は、音程が甘いこともあってか、呪術的な魔術的な異教的な響きがするように感じます。意図的に楽器を使い分けているのでしょうね。
再び、ImpertinAnceへ
さて、チューバのソロ楽器としての能力はどのようなものでしょうか。以下の試聴リンクで確かめてみてください。 Franck Tortiller のヴィブラフォン/マリンバが良い感じなので、そちらに耳が行ってしまいそうですが…
…ウッドベースより余程パワーがあって他の楽器に負けないくらい音が通る、ウッドベースのピッチカートではなかなか難しい、アルコでは音程が気になって眠れなくなる「管楽器のように歌う」ことも、当たり前だけど何の問題も無くできる。もちろん、低音楽器として合奏を支えるちからはウッドベース以上にある。あれ?チューバって結構すごいんですね。見直してしまいました。試聴リンクの二つ目、 ”Les charmes” が特におすすめです。