How My Heart Sings

ななほし、やほし、こころほし。

ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラ、Violoncello da spallaという楽器

ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラというのは、音域はチェロと同一、指使いはヴァイオリン等と同一、という復元楽器である。…ユニーク。正しい復元かどうかは不明。現物が残っていないのだから仕方ない。

バッハ:無伴奏チェロ組曲全曲

バッハ:無伴奏チェロ組曲全曲

 

寺神戸亮氏のディスクに付属のリーフレットに掲載されている写真から、サイズは、ヴィオラよりもかなり大きい。構えると、緒止め(楽器の最下部)が右肩のあたりにくる。厚さもヴァイオリンやヴィオラというより、チェロのそれ。裏側の写真がないので詳細は分らないが、楽器は緒止めと、おそらくネックの根本あたりを繋ぐショルダーベルトを用いて保持する。ゲテモノという訳では無く、文献や楽譜等から導き出された、至極まっとうなものである。…重そうでいかにも肩が凝りそうだし、ベルトで下げただけの楽器では保持するにも安定しなさそうなので左手のポジション移動が難しそうだし、写真を見る限り弓の角度がキツくて弾きにくそうであるけれども。

でもまず、このサイズで、ヴィオラの1オクターブ下であるチェロと同一の音域をカバーできるのかな、とも思うのだけれど…録音を聴く限り、正しくチェロである。鼻にかかったような高音部、ダブっとした感じの低音部、といった、チェロとは異る部分もあるのだけれど…この感じ…ヴィオラか…ヴィオラのC線の鳴り方に近い。楽器のサイズ的に、音域から計算される必要な弦長を確保できていないのだろう。

寺神戸亮氏がリーフレットに書いているように、これはヴァイオリニストやヴィオリストにとってある意味、夢の楽器である。チェロの楽譜をチェロの音域で、ヴァイオリンの運指で弾くことができるからである。ヴィオラではダメなのだ。ヴィオラは運指はヴァイオリンと同一だけれど、音域がチェロの1オクターブ上になってしまうから、全然違った響きになってしまうから。

またこの楽器は、無伴奏チェロ組曲を弾くにあたって非常に適した楽器である。チェロの運指では当時の技術では演奏不可能かそれに近い楽譜が、ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラを使うことによって(ヴァイオリンの運指で弾くことによって)無理なく演奏できるようになるのだ。いやこれは受け売りじゃないて、自分もヴィオラでこの曲をさらったことがあるけれど、第一番あたりならそれほど難しくもなくてというか簡単でとか言ったら、チェロ奏者からざけんなとか、んだとゴルァとか怒られたことがありましてね…

そうした演奏者的興味を差し引いても、このディスクは面白い。テンポ感とか、たくさんの装飾音符を伴って即興的に弾かれているところとか。ここらへんもたぶん、チェロではやりたくても不可能なんだろうな、とか思ったり。

なおこの記事は、How My Heart Sings : ヴィオロンチェロ・ダ・スパッラという楽器を再掲したものです。